唐突にシュークリーム談義

しばらく前からシュークリームが食べたかったんです。「勝手に食っとけ」という突っ込みはさておき、「王道の」カスタードシュークリームとなると、きょうびなかなか手近なところで売っていないんですよ。

生クリームが混入したような邪道クリームではなく、ましてやチーズ風味とかイチゴ風味とか夕張メロン風味とか、そんなものはいらんのです。

しっかりしたカスタードクリームのシュークリームが食べたい。バニラビーンズの粒粒が入ってるやつ。

最寄りの地域密着型ケーキ屋では、シュークリームを置いていなくてですね。暑い盛りに探し回る気力もなく、シュークリームへの思いを心の片隅に抱きつつ、ひと夏を過ごしたのです。

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シュークリーム「だけ」が美味しいケーキ屋

シュークリームといえば思い出すのが、実家のほうにあったケーキ屋のシュークリームです。そのケーキ屋、どういうわけかシュークリーム「だけ」がダントツに美味しい。

ほかのケーキは見た目も味も、いかにも田舎のケーキ屋って感じでもっさりとあか抜けないんですが、シュークリームだけは群を抜いて美味しかった。

王道のカスタードクリームで、バニラビーンズもちゃんと入っている。しかも安い!

どうも店主自身、自店シュークリームの美味さに気づいていないフシがあった。ただお客は正直で、みんなシュークリームばかりを買っていくんで、店主も自店シュークリームのレベルの高さに気づいたのか、じわじわと値上がりをしていきました。

今はいくらになったのかなあ。というか、あの店、今もあるのかな。

淑女は人前で召し上がってはなりません

脚本家でエッセイストの故・向田邦子氏は自他ともに認める美味しいもの好きでした。最初のエッセイ集『父の詫び状』にも食べ物のエピソードがちょくちょく登場しますが、シュークリームも2度登場します。

「お八つの時間」というエッセイでは子供時代のおやつを振り返り、

この頃、一番豪華なお八つはシュークリームと、到来物のチョコレート詰合せであった。

と回想しています。

「ごはん」というエッセイでは、空襲警報が鳴ると本を抱えて庭の防空壕に入るという戦時中の思い出が描かれ、当時女学生だった向田氏は婦人雑誌の付録の料理本を見ては、海外のレシピで作ったり食べたりした気になっていたとつづっています。

「シュー・クレーム」の頂き方、というのがあって、思わず唾をのんだら、「淑女は人前でシュー・クレームなどを召し上がってはなりません」とあって、がっかりしたこともあった。

時代は下り、ケーキのバリエーションもぐんと豊富になりましたが、苺ショートと並ぶ双璧だと思うんですよね、シュークリームって。

「ビアードパパ」で溜飲を下げた

それで、最近出かける先々でシュークリーム専門店「ビアードパパ」を見かけたものですから、少し涼しくなったことだし、初めて買ってみました。

私の中では「ビアードパパ」のシュークリームは、パイ皮とかクッキー皮とか「王道」から逸れているという偏見があったので買ったことはなかったのですが、シュークリームへの思いはもはや抑えきれないものとなっていたのでございます。

季節限定マロンクリームには目もくれず、「パイ皮カスタードクリーム」を購入。パイ皮には目をつむる。

家に帰り、さっそくかぶりつく。クリームはちょっと柔らかいですが思ったより邪道ではなく、パイ皮のパリパリ感も悪くない。

というわけで、思い描く「王道」シュークリームとは少し違ったのですが、シュークリーム欲は満たされました。余は満足じゃ。

王道こそ至高

で、思うんですけど、最近「王道」シュークリームって少ないんでしょうか。

皮の切れ込みから生クリームが顔をのぞかせていたりするやつじゃなくて、少しかためのカスタードクリーム、皮はパリパリじゃなくてふんわりした何の変哲もない普通のシュークリーム。

意外にお目にかからないような気がするんですが、どうなんでしょう。何も足さない、何も引かない。シュークリームは王道こそ至高だと思うんですけどねぇ。

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